ジャズヴォーカリストのための譜面販売

ジャズボーカル用の楽譜を販売しています。ジャズスタンダードに関する記事も書いています。

ヴァースについて(2)

しばらく記事の更新が滞ってしまいました。

また少しずついろいろ書いていこうと思います。

 

ちょっと前にヴァースのことについて書いたことがありますが(前回記事

今回はその続き。

共演者とタイミングを合わせてちゃんとアンサンブルを成立させるにはいくつかポイントがありますが、その中でもアウフタクトの概念を理解することが、まず大切なんじゃないかな、と僕は考えています。

スタンダードをはじめとする、英語の歌は、アウフタクト、つまり、メロディが前の小節の途中から前倒しで始まることが非常に多いです。

で、この前の小節に飛び出てる部分が、他の楽器の人のタイミングを合わせる目印になってくるわけです。楽器の人は、このアウフタクトを聴いてタイミングを計り、小節の頭にコードを弾いたりしてボーカルと合わせるわけですね。

ここのところを、歌う人はしっかりと理解をしてほしい。

つまり、どこからどこまでがアウフタクトで、小節の頭はどこになる、ということです。その区別などお構いなしにどんどん先に歌詞を歌ってしまうと、楽器の人はまず合わせることができません。楽器の人がそのヴァースを知っていれば、とりあえず表面上はずれてないように演奏できるかもしれませんが、それは実際にはアンサンブルは成立していないといえます。

アウフタクト、日本語で言えば弱拍になります。

さらにいえば上向きビートですね。アウフタクトの部分で腕を上げていって、

小節頭で振り下ろす、実際にそこまでやる必要はないですが、

そういうイメージを持って歌うと、楽器の人は非常にやりやすくなります。

一度そういう目で楽譜を見直してみる、というのもいいのではないでしょうか。

ただし、メロディがこのアウフタクトから始まっていない場合もないわけではありません。それについては次回以降に書いてみたいと思います。

 

 

 

 

The man I love

 

もともとは1927年のミュージカル「Lady be good」のための曲だったということですが、あまりミュージカルにイメージが合わなかったとかで

すぐに使われなくなったそうです。

でもそのあとでミュージカルとは関係なく

多くのジャズミュージシャンに歌われるようになったこの曲。

作曲はジョージガーシュインです。

歌詞の内容は、

「私」の理想の彼氏がいつか現れると信じて

あれやこれやと妄想を繰り広げる、、

と言ってしまうとなんだか、

「おいおい、大丈夫か?」

とつっこみたくなるような感じですが、

まあいいんじゃないでしょうか。

スタンダードにはこのように

恋に恋してるような内容が多いですよね。

で、その妄想がすごく具体的だったりして

普通の感覚だとちょっと病的なのでは、

と思ったりすることもありますが、

まあ、これは歌詞の中のファンタジーということで、

いいのかなと。

 

メロディですが、

私は初めてこの曲を聴いたとき、

なんて色気のあるメロディなんだろう、

という風な感想を持ちました。

同主調でメジャーマイナーの間を移ろうメロディとハーモニーで

独特の妖しさをかもしだしている曲は

スタンダードには多いですが(コールポーターの十八番)

これもその妖しさがにじみ出ている感じがします。

そういう点から、歌詞の内容とはちょっとギャップがあるなあ、

という印象がなくもありません。

 

ちょっと変化球ですが、

これのポルトガル語バージョンでとてもすてきな動画があるので

見てみてください。

マリーザさん、本業はファドの歌手?なのかな、

とても素敵です。

それとゴンサロルバルカバ。

私は「弾かないゴンサロ」が大好きです。

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How long has this been going on

 

インストのセッションで好まれる曲と

ボーカリストによく取り上げられる曲は

かなり違っている、というようなことを以前書きました。

まあ一般的に言って、インストで好まれる曲、というのは、

アドリブのしやすさ、もしくは、やってて面白いコード進行、

みたいな観点が多かれ少なかれ含まれていて、

単純にいい曲(という言い方もかなり抽象的ですが)だから、

という理由だけで選ばれていないようです。

これは、見方を変えれば、

インストの定番の曲ばかりを追いかけていると、

他にあるはずの「いい曲」を見逃してしまう、

ということにもつながります。

僕がそこに思い至ったのは、

ボーカリストとご一緒するようになってからです。

ボーカリストの間ではほぼ定番化している曲でも、

インストではめったにやらない、とか、知られていないものが

けっこうあったりして、

そこで、新発見をするわけですね。

「へえ、こんないい曲があったんだ、、」

という感じで。

 

ガーシュインの「How long has this been going on」

は、僕にとってそういう曲です。

ボーカルものから入って大好きになった曲。

ガーシュインの最高傑作との声もあるそうです。

ほんといろんな人歌ってます。

レイチャールズをはじめ、ジャズ以外の人も多数歌っています。

あのボンジョビが歌ってるのまであってびっくりです。

当然ですが、人によって歌い方がぜんぜん違って、

それを比較しながら聴くのもなかなか楽しいです。

チェットベーカーののっぺりした歌い方とか、

さすが、チェットベーカーは何を歌ってもチェットベーカーだ。

(当たり前といえば当たり前ですが、

改めてそう感じさせる個性の力というのはすごいと思います)

 

一つリンクを載せようと思ってどれにするか迷ったんですが、

これにしてみました。

白人の人だけどけっこう粘りがあって、

かといってパワフル黒人ボーカリストほどには

アクが強くなく、

ほどよい湯加減が心地いいです。

 

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I thought about you

この曲は個人的に大好きなのですが、

僕が最初にこの曲を聴いたのが誰の演奏だったのか、

はっきり思い出せません。

メロディがすごく印象的なバラード、という記憶だけ残っているのですが。

マイルスのMy Funny Valentineに入ってるやつだった気がして

久しぶりにyoutubeで聴き返してみたら、

思いのほかメロディをフェイクしていて、

なんかやっぱり違う気がしました。

Someday my prince will comeに入ってるやつだったかな、

いや、それも違う気がする、、ま、それはいいとして、

とにかく、最初に聴いたのはバラードのバージョンで、

それはそれですごく好きだったのですが、

 

それからだいぶ時間がたって、

実はむしろこっちの方が定番のスタイル、

ミディアムよりやや遅めのスイングのバージョンを知って

あ、これ、こういう曲だったんだ、と認識を新たにしました。

個人的には、この曲には2度の出会いがあったわけです。

 

電車に乗って外の景色を眺めながら

ずっとあなたのことばかり考えている、

歌詞も、まあどうということもないといえば

どうということもないのですが、

情景がわかりやすく思い浮かんで

歌の世界にすっと入り込んでいけます。

で、この「私」の電車内での構図をあえて具体的に想像してみるに、

 

「私」は進行方向に向かって右側のボックス席で

進行方向に背を向けて座って、窓側に頭の左側を

もたせかけ、外の景色を見ている、

という感じです。

ま、人それぞれかな。

I peeked through the crack, looked at the track
The one going back to you

アメリカでは電車は右側通行としたら逆かもしれません。

ほんとどうでもいいんですが、

 

たくさんのすばらしい歌手が歌っていますが

この人マキシンサリバンの歌は、ほんと素敵ですね。

 

ジャズボーカルは他のボーカルと何が違うのか、

という議論をよくネットでも見かけます。

一言ではなかなか言い表せないと思いますが、

一つポイントをあげるとしたら「抑制の美学」

みたいなことは言えるんじゃないかと思います。

ドラマティックに歌い上げる、ということをしない。

喜怒哀楽、様々な感情は心の中でうごめいてはいるけれど、

そんなのをそのまま外に出したりしないで、淡々とかみしめている。

大人ってそういうものだ、というかんじの表現でしょうか。

この人の歌はまさにそういう感じが伝わってきます。

 

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It's only a paper moon

この歌はジャズヴォーカルを歌う方にはかなり人気があるほうじゃないでしょうか。

屈託のない、聴いててなんとなくハッピーな気分になれる曲です。

ペーパームーンというのが、最初なんのことかよくわからなかったのですが、

ネットで調べるとすぐに出てきますね。

古い時代のアメリカにあった、記念撮影用の小道具だそうです。

紙(実際はもっと頑丈な材料だそうですが)製の作り物の三日月で、その上に座って写真を撮ったようですね。

それでふと思い出したのですが、

日本では観光地に行くと必ずあるものがあります。

その土地縁の歴史上の人物とか、観光名物の動物なんかをかたどったパネルです。

で、顔のところだけくりぬいてあって、そこに自分の顔を入れて記念写真を撮るやつです。

そういえばあれはどこでも見かけるけど、なんていうものなんだろうか、

とふと気になって、それもネットで調べてみました。

「顔出し看板」もしくは「顔ハメ看板」だそうです。

それは知らなかったなあ、、海外にもあるのかな、、

 

話が脱線しました、、そう、ペーパームーンですね。

歌詞の内容は、そんなペーパームーンでもあなたが私を信じてくれたらただの作り物ではなくなる、みたいなことのようです。

あなたの存在が作り物を本物に変えてくれる。

なかなかロマンチックな発想ですね。

これが顔出し看板だったらまったく雰囲気は出ないですね。

 

この曲もこちらのサイトで販売しています。

Key=Cがコチラ

Key=B♭がコチラ

です。

 

 

いつか聴いた歌

このあいだ、たまに行く古書店「善行堂」さんで、

店主さんにすすめられて買ったのが、

去年惜しくも亡くなった和田誠さんのジャズのエッセイ

「いつか聴いた歌」。

ジャズのスタンダードに関するエッセイで、

歌詞の内容や、曲にまつわる裏話などが

軽妙なタッチで書かれていてとてもおもしろい。

そしてもちろん、和田さんのあの有名なイラストが随所に載っている。

随分前に書かれたもののようだけど、

そんなマニアックな裏事情、どっから情報が入ってくるんだろう、

と不思議なくらい。読んでてためになるかどうかはわからないが、

とにかく楽しめる内容だ。

あ、ためになる、というか役にはたつはず、

ジャズボーカリストにとっては。

ジャズボーカルでステージに立つ人で

MCが苦手な人、それなりにいると思うけど、

 

この本読むと、MCに使えそうなネタがたくさん書いてあって、

そういう人にはすごく役に立つような気がする。

アマゾンで調べてみるともう絶版になってるようで、

中古でやや割高の値がついてるけど。

という訳で、これを500円で買えたのはラッキーだったかもしれない。

 

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